小説を書こうと思ったとき、一人称で書くか三人称で書くか迷ったことはありませんか?
小説における人称とは、語り手が地の文でどういう主語を使うかということです。
人称(視点)は小説の作風に大きく影響します。ゆえに、どの人称で書くかは非常に重要な要素です。
当記事では、これから小説を書こうとする人の手助けとなるよう、人称の種類やその特徴を解説します。
- 小説を一人称で書くか三人称で書くか迷っている
- あとから人称を変更して修正の手間を増やしたくない
- 小説における人称の種類と特徴を知りたい
人称の種類
世の中に流通している小説は、基本的に「一人称」か「三人称」で書かれています。
- 一人称……視点となるキャラクターの主語が「私」「僕」「俺」など自分を指すもの
- 三人称……主語がキャラクターの名前になっているもの
この三人称の中にも「一元視点」や「多元視点」など複数の種類があります。
ただ、三人称の場合は一元視点で書かれることが多く、単に「三人称」と言うと「三人称一元視点」を指すことが多いです。
もちろん、小説における人称は主流である「一人称」や「三人称」以外にも様々な人称が存在します。
次項からそれぞれの人称の特徴について解説していきます。
一人称
一人称は地の文で視点となるキャラクターが語り手となり、「私」「僕」「俺」などを主語としているものです。たいていは主人公を視点とします。
視点人物が何を考えて行動するのか、他のキャラクターの行動でどう感じたかといった心情を細かく書くことができるので、読者は視点人物と一緒に苦悩したり感動したりできます。
ただし、視点人物の背後で起こったことが見えているかのように書いたり、視点人物がいない場所での出来事を書いたりと、視点となる人物が知り得ないことを書いてはいけません。
上記のような状況を描写したい場合、「僕は助手ちゃんに電話した。彼女は隣室でコーヒーを飲んでいた。」などとすればOKです。見えない人物の状況はその人物自身から聞いて初めて知ることができます。
一人称で書くメリットとデメリットは以下とのおりです。
- 主人公の思考や心情を書くことができる
- 読者が感情移入しやすい
- 主人公が知り得ないことを書けない
三人称よりも一人称がオススメな場合
作品において「主人公の心情」が重要な要素となる場合には一人称がオススメです。
- 恋愛小説、ラブコメ、青春ものなど、主人公の感情の動きが大きい作品
- ミステリーのワトソン役や執念深い刑事
- Web小説全般
ミステリーの場合、名探偵を視点にするのは避けるべきです。近くで名探偵の活躍を見ることができるワトソン役を視点とすることで、そのキャラクターと一緒に名探偵の活躍に驚き、感心することができます。
また、Web小説は感情移入して読む人が多く、一人称の作品が好まれる傾向があります。
三人称
三人称は「佐藤は~した。」のように、地の文の主語がキャラクターの名前などで書かれているものです。
視点となる人物が知り得ないこと知っているかのように書いてはいけないのは一人称と同じです。
三人称は視点をどう定めるかによって、いくつかの種類があります。三人称で書く場合には以下に紹介する「三人称一元視点」で書くことを推奨します。
逆にいうと、それ以外の三人称で書くのはオススメしません。一元視点以外の三人称を使いこなすのは非常に難しいです。
一元視点
一元視点とは、特定の個人に視点を定めたものです。
三人称で書く場合は、この「三人称一元視点」で書くことを推奨します。
視点人物の心情は「○○は~と思った。」などと直接書くことができますが、それ以外の人物の心情は直接書かずに仕草や態度で表現します。
一元視点には、特定の一人だけに視点を定める場合と、群像劇のように場面によってフォーカスする人物を変える場合があります。
特定の一人だけに視点を定める場合は一人称と似た形になりますが、内面描写は少な目になり、読者は一人称よりも客観的に物語を追うことになります。
一人称は主人公の中に入り込んで体験を共有し、三人称は俯瞰して主人公を見守るイメージです。
私は三人称でもガッツリ主人公の中に入り込みます。
まあそれは人それぞれだし、読者の自由だよ。
フォーカスする人物を変える場合は、例えば第1話は主人公視点で第2話はヒロイン視点というように、節や章が変わるタイミングで視点も変えるようにしましょう。
複数の人物の内情を書くことができるため、読者に登場人物たちの相関関係を把握させやすくなります。
これは三人称で書くことの最大のメリットでもあります。
- 複数の人物の内情を書ける
- 一人称のような視点の縛りがないため、物語に幅を持たせられる
- 一人称よりも読者が感情移入しにくい
一人称よりも三人称がオススメな場合
「主人公の心情」より「ストーリー(物語や舞台の動き)」が重要な要素となる場合には三人称がオススメです。
- メインキャラクターが複数の群像劇
- バトルロワイヤル系の作品
- 同じ世界や物事でも登場人物によって見え方が違うことがコンセプトの作品
多元視点
多元視点とは、同一シーン内でも複数の登場人物に視点を置いたものです。
主人公以外の人物の心情まで描写できます。
助手ちゃんは先生がサボっているのだと思った。 先生は助手ちゃんにじっと見られて居心地が悪かった。
例文では、「サボっていると思う」ことは助手ちゃんの心情、「居心地が悪い」のは先生の心情です。同一シーン内に複数の人物の心情が書かれています。
神視点
神視点とは、作品のことをすべて知っている作者の視点です。
そのシーンとは別の場所の出来事だろうと、未来に起こることだろうと、その作品のすべてを知っているので、好きな情報を好きなタイミングで入れることができます。
どの人物の内面でも知れるという意味では多元視点とも言えます。
多元視点ではあらゆる人物の内面を覗くことができますが、神視点では天上からすべてを見通すため、誰も人物がいない無人島での出来事なども書くことができます。
- 彼はそれが原因で後に大変な目に遭うことを、いまはまだ知らない。
- 無人の部屋で、電話が鳴っている。やがて留守番電話の自動音声が再生されはじめた。
神のみぞ知ることを神視点以外の作品で描写するのはやめましょう。
一人称で「このときの俺はまだ知らない。」という表現をたまに見かけますが、主人公の過去回想物語でもなければ、こういう表現はやめておいたほうが無難です。
客観視点
客観的事実のみを描写するやり方です。神視点と似ていますが、神視点と違うところは登場人物の心情を直接的には書かない点です。
人物の心情を表現したい場合は、主人公を含め、登場人物の仕草や態度、表情などの変化を描写します。
なんで三人称は「一元視点」以外はオススメしないんですか?
読者が感情移入しにくいからだよ。「多元視点」と「神視点」は視点が定まっていないし、「客観視点」は直接の心情描写がないから、読者が登場人物に入り込みにくいんだ。
その他の形式
複合型
節や章ごとに一人称(主人公)と三人称一元視点(主人公以外)で視点を切り替える方法もあります。
他には、一人称(主人公)と別の一人称(主人公以外)の視点を切り替える手法などもあります。
主人公の心情を深掘りしつつ舞台全体の動きを書くことができるので一人称と三人称のいいとこ取りですが、あまり視点を動かすとせっかく感情移入していた読者がキャラクターから弾き出されてしまいます。
何度も物語に没入しなおす必要が出て読者にストレスを与えてしまうので、このやり方はあまり推奨しません。
推奨しないと言いながら、先生もこれ使ってますよね?
推奨はしないけど、作品に合っているのなら選択肢の一つだよ。川原礫先生の人気作品『ソードアート・オンライン』でも一人称と三人称一元視点が交互に使われていたりするしね。
二人称
二人称とは読者に視点を置いたもので、地の文で「あなたは」「君は」と読者に語りかける形になります。
一人称や三人称の場合だと、読者が主人公の考えや行動に違和感を覚えたときに「あくまでこの主人公は自分のことじゃないから」と妥協することができますが、二人称ではその妥協を許さないので、非常に難易度が高いです。
世の中には二人称で書かれた小説も存在しますが、素人が安易に手を出せる人称ではありません。
まとめ
小説における「人称」について、以下の種類とその特徴を解説しました。
- 一人称
- 三人称一元視点
- 三人称多元視点
- 三人称神視点
- 三人称客観視点
- 複合型
- 二人称
小説を書く際の人称選びは、「一人称」か「三人称一元視点」にすることをオススメします。
どちらで書くにしろ、以下のことには気をつけましょう。
- 視点となっている人物の知り得ないことを書かない
- 視点の混在を起こさない
小説を書いた後から人称を変更するのは大変です。単に地の文の主語を置き変えればいいというわけではありません。地の文は最初に選択した人称に合わせたものになっています。
一人称では地の文に主人公のモノローグが多く含まれるでしょうし、三人称では主人公の知らない情報が書いてある可能性があります。それを変更するとなると、地の文をほぼ書き直さなければなりません。
一人称と三人称一元視点は似たものにはなりますが、やはりどちらを前提とするかで地の文の雰囲気は変わるので、主語だけを置換したとしても違和感が残ることになります。
最初にどの人称で書くかしっかり考えてから小説を書きましょう。
「一人称」か「三人称一元視点」でどうしても迷います。もう先生が決めちゃってください!
じゃあ、Web小説投稿サイトに投稿するなら「一人称」、それ以外なら「三人称一元視点」で書いてみて。