文章を書いていて「漢字で書いたほうがいいのか、ひらがなで書いたほうがいいのか」を迷ったことはありませんか?
漢字表記の語句をひらがなで書くことを「開く」といい、ひらがな表記の語句を漢字で書くことを「閉じる」といいます。
小説やブログ記事など多くの人に読んでもらうための文章では、読みやすいように漢字とひらがなのバランスがしっかりと考慮されています。
当記事では読みやすい文章を書くための漢字の「開く」「閉じる」について解説します。
- 読みやすい文章を書きたい
- 漢字で書くかひらがなで書くか迷う
「漢字」と「ひらがな」を使い分けるべし
文章の文字が漢字ばかりだと読みにくくなります。逆に、ひらがなが多すぎても読みにくくなります。
一般的には、文章全体における漢字の割合は30%程度が読みやすいと言われています。
漢字を「開く」、ひらがなを「閉じる」ということをして、漢字とひらがなのバランスが取れた読みやすい文章を書きましょう。
- 開く……漢字で表記できる語句をひらがなで表記すること
- 閉じる……ひらがな表記の語句を漢字で表記すること
パソコンやスマートフォンで自動変換を使っていると、勝手に変換してくれるので何かと漢字を使いがちになります。
しかし読みやすい文章を作るには、漢字とひらがなを意識して使い分ける必要があります。 次項で漢字とひらがなの使い分けの判断方法を説明します。
変換候補に漢字が出てきたら、とりあえず漢字にしちゃいます。
それをすると、あとからその漢字の読み方がわからなくなったりするよ。
品詞による判断
副詞は開く
主に動詞、形容詞、形容動詞などを修飾する言葉
副詞は開くのが一般的です。
- 直ぐ → すぐ
- 既に → すでに
- 全て → すべて
- 殆ど → ほとんど
- 先ず → まず
- 全く → まったく
副詞でも「特に」や「例えば」のように閉じて使われやすい言葉もあります。ただ、ほとんどの副詞は開いたほうがいいです。
接続詞は開く
前後の文や語句をつなぎ、その関係性を表す言葉
接続詞は開くのが一般的です。
- 或いは → あるいは
- 即ち → すなわち
- その為 → そのため
- 但し → ただし
実質名詞は閉じ、形式名詞は開く
普通名詞や固有名詞など、それ自体に意味がある言葉
それ自体には意味がなく、ほかの語句を修飾して名詞化する言葉
実質名詞と形式名詞で同じ語句がありますが、これらは実質名詞の場合は閉じ、形式名詞の場合は開くのが一般的です。
実質名詞 | 形式名詞 |
---|---|
事(例:事が起こった) | こと(例:おもしろいことになった) |
時(例:時は満ちた) | とき(例:それを見たとき、~) |
所(例:書くための所) | ところ(例:そう言ったところ、~) |
方(例:西の方) | ほう(例:言ったほうがいい) |
物(例:物がない) | もの(例:はかないものだ) |
訳(例:訳を知る) | わけ(例:そんなわけがない) |
形容詞は開く
名詞を修飾し、事物の性質や状態を表す言葉
一部の形容詞は開くのが一般的です。
- 無い → ない
- 凄い → すごい
- 面白い → おもしろい
- 可愛い → かわいい
一般的に漢字で表記されるものも多く、どちらで表記するか迷うかもしれません。
どちらで表記するにしても、文章全体で同じ言葉の漢字とひらがなが混在しないよう表記を統一しましょう。
動詞は閉じ、補助動詞は開く
事物の動作、作用、存在、状態などを表す言葉
動詞本来の意味から離れ、直前に付属する語句の意味を補う言葉
動詞と補助動詞で同じ語句がありますが、これらは動詞の場合は閉じ、補助動詞の場合は開くのが一般的です。
動詞 | 補助動詞 |
---|---|
言う(例:意見を言う) | いう(例:小説家という職業) |
行く(例:店に行く) | いく(例:順に見ていく) |
頂く(例:本を頂く) | いただく(例:読んでいただく) |
過ぎる(例:目的地を過ぎる) | すぎる(例:そこは遠すぎる) |
見る(例:表紙を見る) | みる(例:試してみる) |
形容詞と補助形容詞
形容詞と補助形容詞(補助動詞の形容詞版)も同様です。
形容詞 | 補助形容詞 |
---|---|
欲しい(例:紙が欲しい) | ほしい(例:取ってほしい) |
「~していく」と「~しに行く」を使い分けるってことですか? 紛らわしいですね。
補助動詞は開いたほうがいいから、判断が難しい場合は両方ひらがなにしてしまうのも手だね。
複合動詞の後半は開く
複数の語句が複合してできた動詞
複合動詞は後半を開くのが一般的です。
- 歩き続ける → 歩きつづける
- 読み始める → 読みはじめる
前半の漢字が開いたほうがいい場合など、語句の組み合わせによっては前半を開いて後半を閉じることもあります。
- 彷徨いはじめる → さまよい始める
また、読みやすいのであれば両方閉じたり両方開いたりしても構いません。
臨機応変に判断しましょう。
同じ名詞を連続させた言葉の後半は開く
同じ名詞を連続させて副詞的に使う語句は、後半を開くと読みやすくなります。
- 一つ一つ、ひとつひとつ → 一つひとつ
- 一人一人、ひとりひとり → 一人ひとり
使用頻度の高い動詞は開く
使用頻度の高い動詞は開いたほうが読みやすくなります。
- 成る → なる
- 有る、在る → ある
- 出来る → できる
- 分かる → わかる
特に、状態の変化を表す「~なる」「~になる」は閉じると不格好なので開きましょう。
ただし、将棋の「成る」のような専門用語は漢字表記です。
助動詞は開く
動詞や形容詞などに付属し、直前の語句に意味を付け加える言葉
助動詞は使用頻度が高くなりがちなので、開いたほうが読みやすくなります。
- ~し無い → ~しない
- ~の様な → ~のような
特に、動作や状態を否定する「~ない」「~しない」は閉じると不格好なので開きましょう。
一部の接尾語は開く
一部の接尾語は開くのが一般的です。
- かわい気がない → かわいげがない
- 私共 → 私ども
- 大き目 → 大きめ
- 私達 → 私たち
- あの頃 → あのころ
子供、友達、日頃など、それ自体が一つの単語になっているものは漢字で書きます。
「子供」は「子を供えると書いて差別的」などの理由から「子ども」や「こども」と書く人もいますね。
差別意識を持って「子供」って書く人なんていないでしょ。好きな表記でいいよ。
品詞以外による判断
難解な漢字、馴染みの薄い漢字は開く
漢字が難解なほど、また馴染みが薄いほど、読めない人が多くなります。
読者をそこで足止めしてしまわないよう、難解な漢字や馴染みの薄い漢字は開きましょう。
- 躊躇 → ちゅうちょ
- 纏う → まとう
- 溢れる → あふれる
- 俯く → うつむく
- 庇う → かばう
- 捌く → さばく
- 喋る → しゃべる
- 揃う → そろう
- 繋ぐ → つなぐ
- 滲む → にじむ
一部の当て字は開く
対応する漢字がない場合に、読みや意味が同じ漢字を転用したもの
一部の当て字は開くのが望ましいです。
- 上手い → うまい
- 美味しい → おいしい
- 流石 → さすが
- 彷徨う → さまよう
- 躊躇う → ためらう
- 容易い → たやすい
- 流行る → はやる
- 相応しい → ふさわしい
- 微笑む → ほほえむ
- 火傷 → やけど
- 行方 → ゆくえ
ただし、ゆくえは開いても、行方不明のような熟語は開きません。
読み方が複数ある漢字は開く
一般的な読み方が2つある漢字は読む際に読み方を判断する必要があり、読者を足止めしてしまう可能性があります。
最初から読み方がわかるように開きましょう。
- 潜る → くぐる、もぐる
- 被る → かぶる、こうむる
- 擦る → こする、する
- 歪む → ひずむ、ゆがむ
- 行った → いった、おこなった
- 通った → とおった、かよった
常用漢字でない漢字は開く?
内閣告示の「常用漢字表」で示された、一般の社会生活において現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安
常用漢字は法令、公用文書、新聞、雑誌、放送などに対する目安で、範囲としては科学、技術、芸術などに及ぶものではありません。
小説を書く際には特に意識する必要はありませんが、雑誌記事やニュース記事などを書く場合には考慮しましょう。
まとめ
漢字の「開く」「閉じる」を使いこなす14の法則は以下のとおりです。
- 副詞は開く
- 接続詞は開く
- 実質名詞は閉じ、形式名詞は開く
- 形容詞は開く
- 動詞は閉じ、補助動詞は開く
- 複合動詞の後半は開く
- 同じ名詞を連続させた言葉の後半は開く
- 使用頻度の高い動詞は開く
- 助動詞は開く
- 一部の接尾語は開く
- 難解な漢字、馴染みの薄い漢字は開く
- 一部の当て字は開く
- 読み方が複数ある漢字は開く
- 媒体によっては常用漢字でない漢字は開く
これらの法則は絶対ではありません。自分でどれを閉じてどれを開くか決め、自分のルールを作りましょう。
その場合、同じ語句で漢字とひらがなが混在しないよう統一することが大切です。
14の法則の中でも特に開くべき言葉はありますか?
「~しない」「~になる」と補助動詞は開こうね。副詞と接続詞もできるだけ開こう。
また、文章全体における漢字の割合は30%程度が読みやすいと言われていますが、漢字の割合によって文章の堅さを調整できます。
小説であれば、ハードボイルド小説や時代小説は漢字多め、ファンタジーやラブコメは漢字少なめ、などのように調整して作品の雰囲気作りに活かしましょう。
14の法則以外で開くか迷ったら、どう判断すればいいですか?
手書きした場合にひらがなで書く字は開くといいよ。